2023年、8月9日。

もう二週間以上雨が降っていないような気がします。最近は近所にある不動滝で水浴びをしています。乾季のようなシーズンでもキンキンに冷えた水が常時勢いよく流れています。その水を浴びて身体を冷やした直後、地面までまっすぐに伸びる太陽光線の下へと移動します。さっきまで地獄の熱射ビームのように感じていた光線が、滝を浴びた直後は春の日差しのように優しい。

そうです、これが自然豊かな鳥取だからこそ味わえる「ギャップ萌え」の自給自足です。太陽の下、滝と日向を往復することで、暑苦しくて厳しい表情だった太陽さんの優しい微笑みを見ることができます。暑ければそこに海や川がある。木々の日陰もある。豊かな自然が今後も残っていくことを願いながらこの手紙を書いています。

この地で自然を感じられるのは土のうえだけではありません。鳥取の空は広く、夜空には無数の星が輝いています。ここに移り住み、初めて肉眼で見ることのできた星々。今日はどんな星が見えるだろうかと期待しながら日々夜空を見上げていますが、3年ほど前から、そうして夜空を見上げる機会がこれまでよりも一気に増えました。今日はその出来事について書いてみようと思います。

3年前の冬の夕方。店内にはアーティスティックな雰囲気を放つ男性が一人。会計時に話しかけてくれたその人はケイタタと名乗った。普段は大阪に暮らしているそうで、山陰へ出張した帰りに寄ってくれた。こうして日々訪れる旅人の話を聞くことも本屋を運営する喜びのひとつ。旅人は様々な出来事を語ってくれる。

「自分は生活の折々でユウカツをしています。」と、語るケイタタさん。ユウカツという聞き慣れない言葉。一体ユウカツとは何かと聞くと「UFOを呼ぶ活動、略して「U活」と言います。」とのこと。

「UFOというのは呼べば現れるものなのですか?」
「はい。先日大山でU活した時は本当にたくさん見えましたよ。」

僕は自分が見たことがないからといって、それを存在しないとは思わない。しかし、見たことがないものを存在するとも断言できない。存在するかもしれないというロマンを抱くことは大好きである。河童、ネッシー、埋蔵金。かつて僕を夢中にさせた数々の伝説が頭をよぎる。UFOを呼ぶことができると語る彼の目には嘘がなく、冗談で言っているふうでもない。

「そのU活って、誰でも参加できますか?僕もいつか参加したいです。」と尋ねてみた。「ええよ。」極めて気軽な返答だった。まったく予想もしていなかったUFOとの出会いへの切符を不意にゲットした。

ケイタタさんは大阪へと帰路につくそうで、僕は閉店時間になった店のレジ締めをはじめていたのだが、突如としてケイタタさんが戻ってきた。

「このまま帰ろうかと思ったけど、空を見たら雲がないし、今日はU活日和かもしれない。今夜、今からやりますか?」U活の時がもう来てしまった。夜空を見上げるベストプレイスは店のすぐそばにある。神話に登場する下照姫したてるひめが、故郷である出雲を眺めていたという丘、出雲山展望台だ。さっそく妻と友人を誘い、毛布持参で展望台へと向かった。

キンと冷えた空気の中、人生初めてのU活がはじまった。展望台は静かで、上空を飛ぶ飛行機の音がやけに響いていた。30分程見上げていただろうか。

「UFOを呼ぶ時には穏やかな気持ちで呼ぶのがコツやねん。犬とか子どもを呼ぶような気持ちで。UFO出てきてねーって。そういう気持ちで。あんまり欲深いと出てきてくれへん。」と、こちらの気持ちを見透かしたようにコツを教えてくれた。そうか、穏やかに、穏やかに。

「それじゃあ、ちょっと儀式はじめようか。輪になって。そんで手を繋いで。」それから手を上下にゆっくりと動かしはじめた。手の動きに合わせてケイタタさんは「わんわんわんわんわん」とUFO的宇宙音を発している。「わんわんわんわんわんわん!」ケイタタさんの宇宙音はボリュームを上げ続ける。

「なかなか出てこんな。じゃあ次の儀式。おれが「やっほー」って空に向かって言うから、みんなはそれに続いて「UFO」って言って。」

「せーの、やっほー!」「UFO!」「やっほー!」「UFO!」やまびこのように繰り返されるケイタタさんと我々のコール&レスポンス。しかしUFOからの返事はない。あ!と一瞬期待させる眩しく光る流れ星がもう既に幾つも上空を通過している。飛行機も常に飛んでいる。流れ星のように直線的な動きで速いのは違うし、点滅するのは飛行機だ。

もっとあからさまに不可解な光の動きを求めて、ずっと上空を見上げていた。毛布で身体を包んでいるとはいえ、身体が徐々に冷えてきた。好奇心と興奮の熱も冷めてきて、もう今日のところはお開きにしようかというムードが漂ってきたその時、流れ星よりも遅く、飛行機よりも速い光がスーっと空を真横に横切った。

「ケイタタさん、今のは!」と問うと「フライング型UFOかもなあ。」とUFOマイスターは言った。フライング型と確か言っていた。僕は、UFOは全てフライング型ではないのだろうかという疑問を持ったが、それは胸の内に秘めておくことにした。3年前、そんな夜を過ごした。

それ以来、夜道を歩く時は常に夜空に注目するようになりました。そして、流れ星でもなく飛行機でもない、謎の移動する光をしばしば見ています。僕が見ている光は何なのだろう。

鳥取へ来るまで、視認することのできなかった多くの星々があり、未だその名を知りません。移動する光の名も分かりません。見えなかったものが見えるようになるということは、謎が明かされていくことだと思っていました。しかし実際には、名の知らぬ存在が目の前に現れることで、世界はますます奥行きを増したように感じています。

僕は夜空を見上げる度に未知を思います。
あなたはなにを思いますか?